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読んで印象に残った本などをレビューします。
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一度は読んでおかないと、と思って読んでみたが、その価値はあったと思う。
本の内容としては、議論が雑だと思うので星3つとしましたが、この本を読む価値については星5つです。
この薄い本を読む事で、歴史の一部を直に見てみるという体験ができるのだから、まず読んで損はないでしょう。

まず第一に、この本の内容が受け入れられる時代があったということに驚きます。今から見ると相当に過激な内容ですね。
人類始まって以来の貨幣経済を否定しようとしているけれど、その対処法が驚くほど大雑把でアナーキー。
人間の思考、良心、判断力を信用しすぎの感じがします。

着目した問題(労働者の搾取)自体は、その時代においては大きな問題だったのでしょう。今でも、資本主義にはその問題は付きまとっていますね。労働者は、個人としては解体され、社会の歯車となっていってしまう、と。

その問題提起自体は確かに重要と思うのだけれど、その原因を資本家(私有財産)の存在に求めるところに無理がある。資本家(私有財産)は自由経済を効果的に回すための一装置にすぎず、それを解体したから問題が解決するというものではなかろう、と思うのです。
そして解体後の統治は労働者自身が行う、というのだけれど、神でない人間が全てを見通せない以上、仕組みとして破綻していると思わざるを得ない。
まあこのあたりは、資本主義が現在まで変化と改善を重ねてきた結果、問題点が我々に耐えられるレベルまで小さくなったからこそ、そう言えるのかもしれませんが。

アダムスミスの「神の見えざる手」は、人間には把握しきれない、市場の細部を、貨幣(市場経済)というものが自動調整すると言っているわけだけれど、このメカニズムを破壊して、これに勝る判断を、誰か特定の人間なり団体なりができる、と考えるのは、明らかに間違いであろう。そんなに賢くて完璧で全てを知る人間がいるわけがない。あるいは居たと仮定しても、そこに恣意が入り込むことは避けられない。

公平な市場による調整と、恣意的な決定と、どちらが民主的で効果的か、考えるまでもないと思うのだが、資本主義の「問題」の方があまりに目立っていた時代なのであろう。
また、市場や経済、技術が今ほど複雑でなく、発展や成長の方向というものを、上に立つ意思決定者が一意に定めることができる、と考えることができるような時代でもあったのだろう。

いずれにしても、人間の考えるユートピアというものは危ない。自らの思考力を信用しすぎてはいけない。現在あるものは、やはり何らかの理由があってそうなっていることが多い。もちろん問題がある場合には正していく必要があるが、現在の大前提を一気に否定し、何か別のもので置き換えればうまくいくだろうというのは、やはり想像力の欠如ではと思える。

そのような意味で、私はベーシックインカムみたいな考え方にもどちらかといえば否定的です。
一見、わかりやすくて面白いものは、現実を地道に改善していく大変さと、伴って発生する問題点を忘れさせ、実際以上に惹きつけられるので、冷静にそのメリットと実現可能性を見なくてはいけないと思う。
大きな変革もいいけれどその前に、もっと適切に再分配するとか、現実的な対処でできる事が残されているならば、まずそれをしっかり検討すべきではないか、という事を忘れてはいけないと思います。

ただし、時代が変わっていくとき、新たな仕組みが必要になる事はあると思うので、新たな可能性の検討に対してオープンな気持ちでいたいとは思っています。


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