宗教と文明、そして平和
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最近読んだものを中心に、個人的にオススメの本を紹介します。
(最近といってもだいぶ前ですが!本当の最近は本を読めていません)
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キリスト教において、この世界の不条理、困難はどのように捉えられているでしょうか?

キリスト教では、故なく社会的に迫害され、十字架にかけられ、無抵抗で死んでいくイエスを神として信仰の対象としています。
イエスにとって、そのような世界は地獄ではなかったでしょうか?(もちろん「地獄」と呼んで良いでしょう)
つまり、そのようなイエスの生き様を自らの手本とするキリスト教には、出発点として「この世は地獄である」という前提が織り込まれていると言って良いと思います。

だからこそ、そこから天国へ入るために命をも投げ出す「自己犠牲」が生まれてきます。
「自己犠牲」は、単に人に施しを与えるとか、他者を助けるために自分の生活や財産を犠牲にするとか、
ということだけを指すのではありません(もちろんそれらは大変重要ではありますが)。

真理を探究し、文明を前に進める科学も、神を信じる科学者たちの多くの献身と自己犠牲(真理に対する)によって進められてきました。
法治国家、国民主権、自由平等、等を前提とする近代社会も、神の望む世界を実現しようという多くの先人達の自己犠牲と不断の努力によって築き上げられてきました。
広くは学問、イノベーション、芸術文化等も、多くの自己犠牲の賜物と言って良いでしょう。

例えば、過去300年に最も重要な業績を残した科学者300人のうち9割が神を信じていた、ということを読んだことがあります。(「科学者はなぜ神を信じるのか」という本だったかと記憶しています)
その時代には皆が神を信じていたんだからそれはそんなものだろう、という見方もできなくはありません。
しかし、優秀な科学者であればあるほど、安易な常識などにとらわれず物事を突き詰めて考えていたはずであり、
歴史に名を残すほどの発見や発明を行なった人々(例えばニュートンやエジソン達)が、自分なりの確たる「根拠」も持たずに、「皆が信じているから自分も信じる」などということが出来たはずがない、と思います。
つまり、彼らは人並み以上に強い根拠と信念を持って神を信じていたに違いない、と考えるのです。(もちろん「根拠」は科学の言葉ではなかったでしょうが)
そして、彼らにとって科学的真理の探求とは、「神が創った世界をより深く知る」ことであり、「神の知恵に触れる」ことだった、はずに違いないと考えています。
(これは私個人の考えだけではなく、多くの本に書かれていることでもあります)

日本においては、現代は科学知識や情報が行き渡り、人々が賢くなったから宗教離れが進んでいる、つまり「進歩したので」、無知な時代の産物である宗教を克服できた、かのように見られることがあります。
しかし私の感覚では、実際はむしろその逆であり、表層的な知識や情報が氾濫する現代社会の中で、人々が物事を自分で深く考える余裕や力を失い、また分業化や専門化が進み社会が細分化された結果として人々の思考がタコツボ化し、総合的全体的に俯瞰して本質を捉える「知的直感力」「総合的知性」が弱まった結果なのではないか、と考えています。

特に日本においては、宗教=迷信/無知/前時代的、の如く捉えられ、無宗教=進歩開明/知性的/科学的、の如くに考えられているかと思いますが、日本社会に広く見られる思考停止状態は、おそらくそのあたりから始まっているのではないか、とも思っています。
この世界の意味、我々の立つ土台にある文明の意味を真剣に考えないままに、どんな意味のある思考や行動が積み上げられるだろうか、ということですね。
(それらを真剣に考える上で、文明の基盤をなす宗教の深い理解は避けて通れないはずです)

次に、宗教の果たしている役割の例として、(まだまだ課題は山積ですが、ともかくも)人類が現在のような豊かで安定した世界(飛行機で世界を行き来でき、ネットで世界の情報を得られ、貿易で物資を融通し合う、ような)を手にすることができたのは、キリスト教由来の平和主義、自由平等、自己犠牲、等によるものだ、といったことが挙げられるのではないかと思います。
(現在はいろいろと綻びも見えてきている感じではありますが、少なくとも一旦はそういった状態へ辿り着けた、ということは大きな成果と言って良いでしょう)

例えば、現在のイスラエルによる大規模な空爆は、「キリスト教以前の世界の姿」を私たちに示している、と感じています。
旧約聖書には「目には目を」(イーブン以上を求めてはいけない)と書かれているわけですが、愚かな人間はそれで留まらなかったわけですね。
旧約聖書には、そのように延々と人間が繰り広げる泥沼が描かれています。
(現在のイスラエルを見てください。お互いが倍返しを続けていったらどうなるかは、火を見るより明らかですね)
そして新約聖書では、見かねた神がイエスを遣わし、「右の頬を打たれたら左の頬を出しなさい」「下着を取られたら上着をも与えなさい」といったメッセージを伝え、さらに最後には「罪もないのに十字架にかけられ無抵抗で死ぬ」という形で、身をもって手本(higher ground)を示したわけです。(そんな無力な神様がありますか?という感じなわけですが)

人々がいくらキリストを信じるからといって、そのまま、無抵抗で殺されることを真似るのは流石に難しいわけですが、神を信じる以上はそういったメッセージを完全に無視することはできません。
そこで、お互いに限界ギリギリまでの忍耐、努力、抑制、そして倫理的対応、が求められることになります。
それにより、時間はかかりましたが、紛争等の報復が徐々に抑制的になり、また周囲もそのような基準の行動を求めることで、現在水準の世界平和が可能になった、というふうに考えています。

戦後の長く続いた安定は、単に、お互いが痛い目に遭いたくないがための「相互利益に根差した相互監視と抑制」だけでは達成はできなかったのではないかと考えています。
必ず「そんなことは知らない」、と行動する者が現れ、ひとたび始まれば再び拡大再生産の泥沼へと進んでいくに違いないと思われるからです。

もちろんアメリカのようなスーパーパワーが存在したため好き勝手はできなかった、ということはあるかもしれませんが、やはりそれだけはでなく、ヨーロッパとアメリカが聖書の理念(自由主義、民主主義)をベースに連携し、それを世界における倫理判断、価値判断のベースとしていたことは大きく、また人権等「理念」の土台を共有する広い協調も必須だったと思われます。
そして、その「理念」を裏側で支えているのは、今日においてもキリスト教であるわけです。
(従って、現在世界のキリスト教の退行は、世界の不安定化を招く憂慮すべき事態であり、見方によっては世界の安定を脅かす最大のリスク要因、とすら言えるのではないかと考えています)

いや、宗教などなくても日本人はもっと平和的だ、宗教こそ争いの元凶ではないか、というのであれば、それはおそらく先の大戦のことを忘れていますし、(あり得ませんが)仮に日本がアメリカに勝っていたらどんな世界になっていたであろうか、を想像してみれば良いのではないかと思います。(因みにここでは天皇崇拝は宗教とは考えていません。寧ろ政治あるいは文化と捉えるべきでしょう。少なくとも啓典宗教に見られる明確な教義や行動の指針などは存在していません)

また国連など、数ある国際協調の枠組み等も、先進国間でキリスト教の共通理解と、それによる理念の共有、があったからこそ可能になったものだ、と考えており、共通の基盤(キリスト教)が不在であれば、仮に協調が可能であったとしても、今より遥かに脆弱で機能しないものになっていただろう、と考えています。

もちろん不完全な人間が動かしている世界ですので、いくら宗教があっても間違いは犯しますし、あるいは思想を曲解して過激な行動をとるような人々も出てくるのは避けられません。
しかしながら、宗教がなければそもそも全体の平和が存在しえなかっただろう、ということを考えれば、部分的な間違いや争いは、相対的に小さなエラーと言っていいのではないかと思っています。
(宗教がなければ、「力が全て」の、血で血を洗う争いが現在までも続いていたのではなかろうかと想像します。但しその場合は、核技術の出現によって世界は既に終わっていた可能性が高い、かもしれませんが)

つまり、トータルで見れば宗教は平和側に「より大きく」寄与しているだろうと考えており、「宗教が争いの元」は、木を見て森を見ずの言説ではないかと考えています。
(少なくとも、その前提となっている「平和の存在」を当然視している時点で、いささか想像力を欠いていると感じますし、もう一方の、宗教の存在が平和に「どのくらい寄与しているか」、といった観点が抜けている限りは、バランスの取れた議論とは言えないと思います)

また、日本が泥沼の紛争から比較的無縁で来られ、現在も平和的でいられるのは、地理的に圧倒的に安全な島国(自然の要塞)であり、さらに戦後はアメリカにとって(地理的に)重要なアジア拠点であったことから、強固な安全保障が約束されてきたため、でもあるでしょう。
日本人の思想や考え方が優れたものだから平和的な考え方ができる、とは思いません。
歴史的、地理的にイスラエルの状況と同じだったらどうなっているだろうか?ということですね。
常に迫害と民族存亡の危機にさらされ、「進むも地獄/退くも地獄」の泥沼の歴史、およそ我々日本人の想像を超えた困難に満ちた世界の中で、「平和が一番」などとも言っていられないのも、また現実であろうとも想像します。

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